ムットン調査団267高齢者施設4霊安室

各位

前回は静岡県知事選挙について団長が燃えていたので高齢者施設シリーズを中断して書きました。今回は高齢者施設シリーズに戻ります。

高齢者施設シリーズは段々とえぐい話になっていきます。

この高齢者施設には男女それぞれ大きなお風呂がありました。もちろん無料で入浴できます。したがって近所の高齢者はもちろん区内全域から高齢者が大浴場目当てでやってきます。区内を走る無料バスも全てこの高齢者施設に来るように運行されていたので、お風呂は大盛況でした。みんな大きなお風呂は大好きですから、しかも無料です。

そんなお風呂で事件が起きたのです。

ある冬のお昼ごろだったと思います。施設利用者の男性が1階の事務室に来て「お風呂の浴槽で男性が浮いていて動かないよ、死んでるんじゃないか」と言ってきました。

看護師がすぐにお風呂場に向かいます。その場で心臓マッサージに人工呼吸を何度も試みますが駄目でした。

救急車もほどなく到着して、その男性を車内に入れた時、救急隊員が「誰か一緒に乗ってください」と言ったらS係長がすかさず「大〇君、君が乗れ」と言ったのです。

私は「看護師のAさんが乗るんじゃないんですか?」と言ったのですが

「つべこべ言わずに早く乗れ」と言われ、何で俺?ここは看護師でしょ、訳わかんねえと思いながら乗りました。

救急車は某大学病院につき、医者による死亡が確認されたあと、遺体は地下の霊安室に運ばれました。私は遺体と一緒に霊安室で待たされることになりました。

大学病院の遺体霊安室なんて初めて入りました。そこには遺体と私の二人だけです。

何とも変な感じです、私はその亡くなった方を全く知らないんですよ。

看護師や長く高齢者施設にいる他の職員なら知っている人も多かったと思いますが私は見た記憶もない男性でした。

何で俺がここにいるんだ、なんでS係長は俺を救急車に乗せたんだ、絶対、人工呼吸までした看護師が来るべきだったんです。

すると警察官2名が突然現れて、来たと思ったらすぐに私を質問攻めにするんです。

私に名前、住所、電話番号、本籍、筆頭者、家族全員の名前、私の職業、いつ役所に入り今何年目なのか、今の仕事の内容、その前の職場の仕事について、今の住所には何年住んでいるとか、家族の職業など とにかくものすごく細かい事を聞いてきます。

俺はただ救急車に同乗しただけなんですよ。

警察の手順なのかもしれませんが、私や家族の個人情報を何でそこまで聞くんですかね。

まるで被疑者のような質問責めにあいました、私は高齢者施設の職員で救急車に同乗しただけだと言っているのに、結構きつい取り調べが続きました。

やっと警察から解放されると、次は大学病院の看護師が着て、売店で浴衣を買って、遺体を浴衣に着替えさせてくれと言うので、私は「ちょっと待ってください私は親族でもなんでもないので、それは出来ない」と言うと。「だったら早く親族の人に来てもらうように、それまでは帰らないように」と言われました。

まだ携帯電話がない時代なので病院の公衆電話で高齢者施設に電話をして、一刻も早く親族を大学病院にくるように要請しました。

霊安室に戻ると、今度は葬儀業者が来ました、大学病院と提携している葬儀業者だと言って葬儀の手配の話をしだすので「すいません、私は親族ではないので何もできませんので、親族が来たら交渉してください」とまた同じことを言って断りました。

地下の霊安室で知らない老人の遺体と二人でいるというのは何とも落ち着かないものです。

遺体と一緒に二人でいるという経験は生まれて初めてだし、ましてや知らない人と沈黙の中でゆっくりと時間が過ぎるわけです。まあご遺体には申し訳ないが不気味で少し怖かったです。

そのうち、もう一体、血だらけの遺体が裸で運びこまれてきて、近くに血だらけのズボンやシャツも置いてあり、多分交通事故の遺体だと思いました。より不気味な感じで、ますます、その部屋から出たくなるのだけど親族は来ない。

高齢者施設の利用者なら家はこの病院からも近いはずである。奥さんやお子さんがいれば、もう着いていいのに、一向にこない。

高齢者施設に電話したら、奥さんはいるんだけど別居していてもう関係ないから来る気はないと言っているとの事。冗談じゃない親族が来ないと私が帰れないんです奥さんを説得して何が何でも病院に来てもらうように頼みました。

しかし、待てど暮らせど奥さんは現れません。高齢者施設に何度電話しても無理との事。

まじ、施設の職員はまともに奥さんの説得してるのかと疑問に思い、もう私がかけるしかないと思い、私が奥さんの電話番号を聞いて、かけました。

最初は確かに、「あんな人は私と関係ないので行きません」の一点張りでしたが、私も「奥さんが来てくれないと私が帰れないのです、奥さんがまず来ること、その上で関係ないと言うなら、病院の人にそう言ってください、長いやり取りでしぶしぶ来てくれることになりました。」

実際にきたのは、その後だいぶたってからです。もう夜になっていました。やっと来たのでほっとしたのと、とにかく疲れました。

奥さんが来たので施設に電話したら、何とみんな帰ってしまっていて誰も電話にでませんでした。「はあーふざけんなよ!」です

そもそも、なんで俺一人を病院にいかせて誰もこないんだ、普通応援に誰かよこすとか、交代するとかするよね、奥さんの説得もまともに出来ない、でもって帰ってしまう。

俺は病院の地下の霊安室に知らない爺さんと丸一日いたんだよ、警察の尋問、葬儀屋や病院との折衝、奥さんの説得。怒りだけがこみ上げてきました。「やってられねえよ、あんな奴らと一緒に仕事なんか」

やり場のない怒りを、どこにもぶつけられなかった。多分あの頃の俺は日々の怒りや憎しみを心の中にしまい込み、そのはけ口を求め心は出口のない迷宮をさまよっていたのかもしれない。

まあ、直接的ないじめではないけど、思いやりゼロの記憶に残る事件でした

事件はまだ続くよ