ムットン調査団231、小さな正義

各位

本当に小さな話です。

私は役所に入り初めて配属された部署は出張所でした。仕事は区民にとって最もなじみのある仕事です。転入、転出の手続き。印鑑登録に印鑑証明の発行、住民票の発行などが主な仕事でした。細かくは、他からの紹介で住民票発行の郵送手続きや、住民票閲覧の手続き。

住民票の実態調査。税や国保の収納。併設している区民館の貸し出しや巡回文庫の貸し出しもありました。その他にも細かい仕事は色々ありました。

そんな中で覚えている出来事があります。ある区民の方が「昨日、出張所で区民税を払ったのに、今日税務課の職員が来て期限までに税金が納められてないので払ってくれと来たんです。もう払ったと言ったのに、払っていないと言われたのでまた払ったのだが、間違ってないのか調べて欲しい」との事でした。

私はすぐに税務課に電話をして税金の収納状況を調べてもらいました。

税務課で調べたら、確かに二重で徴収しているので区役所に来てもらって、返還の手続きをとるように言ってくれと言うんです。

私は、まず何で二重で税金を取ってしまう間違えがおきたのかを聞きました。

税務課の担当者は「昨日、出張所で収納された税金がまだ反映されていないので、徴収担当のものが家に行って再度、税金を取ったんですと」と言ったので

私は「それは完全に税務課の間違いですよね、私もこれから区民の方に謝るから、あなたのほうも謝ってください。それから、税務課で間違えたんだから区役所に来いというのは、おかしいんじゃないですか」と聞くと

税務課の担当者は「区役所に来てもらわないと還付する方法がないので、そう伝えてくださいと」と結構、上からの感じで言ってきたんです

確かに、税金の還付の手続きをすぐに行うには区役所に行って手続きをするのが、決められた手続きだったんでしょう。

私は、そりゃないだろうと思いました。

私は「間違えたのは税務課ですよ、しかも家までお金を取りに行ってるんですよ。もらう時は家まで行っているのに、返す時になったら役所に来いはおかしいでしょう、返す時も家まで行ってお金を返すべきだと」言いました。

税の担当者は「還付するなら、役所にきてもらうしかありません、嫌だとごねているんですか」と言うので

さすがに私は少し切れたと思います「間違えて家まで行ってお金を取ってきたんだから、お金を持って家まで行くのが当たり前でしょう、取る時だけは良いけど、返す時は役所に呼びつけるなんて絶対におかしい。取られた人たちの身になって考えているんですか。

税務課の職員が家まで手続きにいくべきです」と語気を強めていいました。

最後は税務課の担当者が上司と相談して、折れてくれて区民の家までお金を持っていくことで話が決着しました。

あの時の私は当然だと思っていましたし、区民目線で考えたらそれしかないでしょうと思っていました。

すでに払い込まれている税金を、家まで行って再度徴収しているんですから。

この事を書くまでは、あれは正義だと思っていました。

今、何十年の時を経て考えると頭が少し役所脳に侵されてきたような気がします。

昔の税務課は職員数も多く、税の徴収部門と収納部門は別の係でした。

家までお金を取りに行ったのは徴収部門です。税の還付となると収納部門だったと思います。収納部門にすれば徴収部門が家に行ったなど関係ありません、純粋に支払ったお金を還付する手続きをするだけなので、役所に来てくださいとなったのでしょう。

ただ、そこは同じ税務課なんだから何とかしろよと言いたいところです。

もう一つの視点は徴収部門が家まで行ったと言うことは、まず税金の滞納があったということです。次に督促状も何通も出しているはずです。それでも納めてくれないので家まで行って徴収した訳です。役所も手間ひまかけてやっと徴収したわけです。

期限内に税金を納めていてくれたなら、このような事態にはなっていなかったのです。

最初に収納の紙が郵送で届き、その後で督促状を出したり、何度も電話をかけたりもします、その上で自宅まで訪問という、かなりの労力をさいていたことになります。

そう考えると、還付の手続きに区役所まで行くのもありかなとも思います。

間違いをおかしたのは役所なのは言うまでもないが、もし還付の手続きが当時、役所でしか出来なかったとしたら、我々は区民の方に何度も謝り、その上で制度上こうするしかないと納得してもらうのが筋だったのではないかと。

感情的には区民の立場に立って、役所的な事しか言わない税務課の職員に腹を立てて、強引に家までいくように話をつけたけど、正しい選択だったのだろうか。

大した話ではないんですが、役所仕事の根幹のような出来事なのかもしれません。

常識的には間違って家まで税金を取りに行ったのだから、返す時も家まで行って返すのが当たり前、でも役所のルールでそれが定められていなかったら、何度でも謝って、納得してもらうまで丁寧に説明したうえでルールに従ってもらうのが役所のやり方だったのでは。実際、当時のルールはどうだったかは知りませんよ。

家までいくのが面倒なので税務課の担当者がそう言っただけなのかもしれません。

ただ、あの当時は自分の行動は絶対に正しい正義だと思っていましたが、時を経て双方の立場にたって冷静に考えてみると何が正しいことなのか少しわからなくなってきます。

視点を変えるだけで、正義も変わってしまいます。正義とは何なのでしょうね。