ムットン調査団242、一冊の本1

一冊の本が時に人生を変えることがあります。

過去にこの文章を書いた時に、私の文章を読んだ後でその本を買ったり図書館で借りたりする人が結構いました。大半の人は私と同じだったみたいで何も変わりません。

でも一部の人はすごく感動したと言っていました。それでは本題をお読みください

各位

さて今回は本の話です。

私が18歳の大学1年時の話です。

その頃、私には一学年下のAと言う高校生の友達がいました。

私とは高校も違うのですが、時々会って話をしたりするくらいの仲です。

Aは真面目な感じで、都内の私立高校に通う、まあ普通の高校生です。

ただ、真夏でも生地は薄くても必ず長袖のシャツを着ていました。特にそのことについて聞いたことは、ありませんでした。

真夏なのに暑くないのかな、とは思っていましたが、あえて聞くようなことでもないだろうと大して気にはしていませんでした。

最近は日焼けを嫌って、夏でも薄手の長袖の人や、腕だけを覆うものを付けている人もよく見るようになりましたが、私が若いころは、真夏に長袖の人はほとんどいなかった気がします。もちろん、日傘をさしている年配のご婦人の方はいましたよ。

ある日、その高校生から相談があると、言われました。Aと知り合って半年くらいの時期だったと思います。

「修学旅行で京都にいくのだが私はクリスチャンなので寺院、仏閣には入らないつもりだがどう思うか」と。

私は即答で高校生なのに何を言っているのだ、京都、奈良の神社仏閣は日本文化だと、キリスト教もいいけど仏教だってイスラム教もある、全部知ってからならいいが、まだそんなガチガチの考えは良くないと説教しました。

京都、奈良の文化遺産は後世に残すべき日本の宝だと思っています。日本の文化遺産なので宗教抜きで見るべきだと思いました。世界最古の木造建築物の法隆寺奈良の大仏金閣寺銀閣寺、清水寺等々、見るべきだと強く言いました。

Aからの相談を受けた時の私はまだ18歳でしたから、深く考えずにガンガンとまくしたてるように話したと思います。

すると、Aが左手の袖を上に巻き上げました。Aは今まで真夏でも長袖を着ており、半そでは見た事がありませんでした。

その腕には太くて長い大きな傷跡がクッキリ刻まれておりました。

Aが語り始めました。一年くらい前に生きるのが嫌になって、朝、いつも通り家を出た後、学校には行かないで電車にずっと乗って終点まで行った。その場所は山が近かったので、そのまま山の中に入っていき、さまよい歩いたあと自殺をはかったと。

大量の出血で意識がなくなった。後で聞いた話では意識がない中をたまたま通りかかった作業員に発見され、救急車が呼ばれ一命をとりとめた。あと少し発見が遅かったら死んでいたとの事

病院に運ばれて即入院となった中でたまたま一冊の本にめぐりあったのです。その本でAはクリスチャンになり生きる意味と希望を見いだしたと言っていました。私はその時十字架を背負ったような気持ちになったのを覚えています。

それにしても、一冊の本が生き方を変えてしまうんだ。私にはそのことが一番衝撃的でした。

真夏でも長袖を着ていた理由が初めてわかりました。

生きる意味を見失ったAがクリスチャンになり人生の意義を見出して、前向きに今を生きている。あの時、Aを支えているのは家族でも友達でも、もちろん私でもない。

Aの心の拠りどころはキリスト教だったんだと思います。

私は軽々しくAを説教した自分を恥じました。Aにとっては生死にかかわる問題だったのです。

私は前言を撤回しました。そんな過去も知らず説教までしたのを詫びて、後は自分で判断すればいい、苦しいなら神社仏閣には行かなくていいよと言いました。

Aと別れた後ですぐ本屋に飛び込みその本を買いました。私は心がけがれているのでしょうか無感動でした。この本を読んで人生観が変わるのが不思議でした。

でも、実際にその本で人生が変わった人がいるわけだから私は本の持つ力に驚いきました。まあ当時、いろいろと考えさせられました。

今、思うのですが、この当時Aが私に相談してきたと言うことは、A自身も京都や奈良の神社、仏閣に入るべきかどうかを迷っていたと思うんです。

私は当時は重い話を聞いて、思考が停止してしまい簡単に自分の考えを撤回してしまったけど、正しい答えだったのだろうか。

Aが迷っていたならば、自分の考え方を通しても良かったのではないかと、数十年たった今は思います。

Aは私の説得や理屈で神社、仏閣に入ることに納得したかったのかもしれません。敬虔なクリスチャンで考え方が決まっていたのなら私に相談する必要はなかったのですから。

私のアドバイスが適切だったか、どうかはわかりません。

Aとは何十年も会ってないし、連絡先も知りません。あの時、どんな答えを期待していたのかは、わかりません。

いずれにしても、一冊の本が人の生き方を変えたんです。生きる意味がわからなかったのに明るく前を向いて歩き始めたんですから、すごいですよね。

一冊の本が人生を変えるんだと言うことが私に深く刻まれた出来事でした。

この話だけなら、私もそこまでは驚かないのです。話は次回に続く。