ムットン調査団243、一冊の本2

各位

一冊の本の物語は予告通り前回では終わらなかったのです。

話は私の高校時代までさかのぼります。私の高校早稲田実業は当時はまだ男子校でした、また、早稲田大学へは約7割がそのままエスカレーター式に推薦で進みます。

今は共学でほぼ全員が推薦で早稲田大学に進学します。

当時は推薦から漏れた残り3割になると、当然ですが大学受験という厳しい世界に放り込まれるのです。

男子校なら普通は理系の割合が多いと思いますが、早稲田大学には理工学部の他には教育学部に理系の学科が一つあるだけで、当時残り7学部は全て文系です。現在はさらに3学部文系の学部が増えています。

そうなると、理系クラスを選択した場合、早稲田の理工学部に入れないと自動的に受験になってしまいます。

受験を避けるためには、自分は理系だと思っていても、文系を選択せざる得ないのです。

理系を選択した場合ですが。当時理系のクラスは学年で1学級だけでした。

その中で理工学部に推薦で行けるのは5割くらいでしたから、早稲田大学に行ける確率は文系よりかなり厳しい状態になります。

当時の早稲田の理工学部は私大の理系のトップでしたから、推薦されるか、されないかは、まさに天国と地獄の差がありました。

ここで、友達のM君が登場します。高校2年の時、同じクラスになり、そこそこの友達だったと思います。

三年になるときM君は理系を選択しました。成績はまあまあだったと思うのですが理工学部狙いは無茶な選択だなと思いました。案の定、彼は推薦をもらえず、受験戦争の中に放り込まれてしまいました。

付属高校のあるあるですが、受験を前提としていないので、のびのびと言うと聞こえは良いのですが、三年間ほぼ放任状態なので完全なバカになります。

ここからの受験はマイナスからの挑戦です。根性のある奴だけが這い上がってきます。

さてM君ですが、先程書いたように理工学部の推薦は駄目でした。ここで彼は気持ちを切り替え根性で受験勉強に励みます、実際、浪人時代にM君がどれだけの勉強をしたのかは、わかりません。

さて一年後の結果ですが、M君はかなり難易度の高い旧帝大の国立大学の理系の学部に見事に合格しました。

これには私もびっくりしました。まさかM君がそこまでやるとは思っていませんでした。

まあ、でも友人の努力の結果ですから、そこは素直におめでたいと思いました。自分の場合は少しだけ、くやしい気持ちもありましたが。

さて無事に難関大学に入学したM君でしたが、ここから、彼は変わって行きます。

夏休みや冬休みに東京に戻ってくると必ず私に連絡がきて会うのです、会うときは高校時代の仲間がもう一人いて、この三人で会うのがパターンでした。

最初に彼が帰って来た時に、まずびっくりしたのが彼の見た目の変化です。

彼はヘビーロックのバンド活動を始めたために、髪の毛はどんどん伸びて腰まで伸ばしていました。またロンドンブーツを履いていたので、身長が30センチくらい高くなっており、まあ目立っていました。

ヘビメタのロックバンドをやっていたので見た目がすっかり変ってしまいましたね。

後で聞いた話では、その頃から、すさんだ生活が始まったみたいです。

私もあれだけ見た目が変わると大丈夫なのかと心配していました、特にヘビメタのバンドですから、真面目に生きるのがダサいような感覚になるんじゃないのかなあ。

詳しくは書けませんが、たまに東京に帰ってきた彼に会って話を聞くと、このままだと本当にヤバいと思いました。彼は下手をしたら廃人になってしまう恐れもあると思いました。

お互いに大学を卒業した頃から、彼からの連絡が来なくなりました。

高校卒業以来、私からM君に連絡をした事は一度もなく、いつも彼から、かかってくる電話で会っていたので、M君から連絡がないと必然的に私達は全く会わなくなりました。

私は、たまにM君は今頃どうしてるかなあと思うくらいだったと思います。

その後、何年か全く連絡がこなくなりました。

このまま彼とは会わないままになるんだろと思っていました。彼はもう、まともな人生は歩まないような気がしていて、私とは住む世界が違う危ない場所で生きていくのかなあとも思っていました。

そんな時、私の元に、彼からの結婚式の招待状が届きました。

事前に電話なんて一切ありませんでした、郵送で突然、招待状が届いたんです。

へえー、あいつ結婚するんだと驚きました。全く連絡のないまま数年がすぎたら突然の結婚式への招待状ですよ。びっくりしましたが同時に嬉しかったですね。

結婚式にはもちろん出席です。

久しぶりに会った彼は、見た目はどこにでもいる普通のサラリーマンになっているじゃありませんか。

もしかしたら長髪でアウトローのような風貌かもしれないと思っていたのですが、全くの普通の男に戻っていたのです。

髪も短く一流企業のエンジニアになっており、まずは、ほっとしました。大学は一流の国立大学だったから、真面目になれば、そのくらいの企業には当然、就職出来たと思います。

久しぶりに会った彼とは、通り一遍の挨拶で「おめでとう」と言ったくらいで細かい話までは出来ませんでした。

まあ、新郎は何かと忙しいだろうから、詳しい話はあとでゆっくり聞こうと思い結婚式に出席するために教会へと移動しました。

続く